原点を思い出して10代に戻りかけた本 『アイの物語』 山本弘
ボクは読みながら何度も震えた。読み進めてページをめくるたびに自然と、ため息がでた。終わりの2ページでボクの全身を鳥肌が包んだ。山本弘はいつまでたっても最高のSF作家だったことがわかった。
『アイの物語』を読んだ切っ掛けは404 Blog Not Found:40歳までに読んでおいてよかった40作。
流し読みをしているなかに『山本弘』という名前を見つけた。捨て去りたい過去の中にある名前だった。
10代当時、綺麗な童貞だったボクが夢中になっていた遊び=TRPGがあった。それはもうハマっていた。完全に中二病だったし、自分の作り出した世界設定ノートは恐らく10冊じゃきかなかった。
ただ、『AB型は二面性を持つ』という迷信が本当だとしたら、ボクは実にうまく振る舞っていたと思う。
10代後半の頃は、ちょっとだけ悪い友達と付き合うようになって、ナンパやコンパに忙しかった。ほとんど毎日午前様だったボク。だけど日曜は、オタク達と「オレの名前は、ヴァルフ=ニギルス。狼の守護精霊を持つイギリット族の末裔だ……ヴァルと呼んでくれ……」とか言ってた。
嗚呼、今すぐ死にたい。過去を黒く塗りたい。まあ、ソレはソレとして。
その頃の山本弘は、グループSNEのクリエイターとして、安田均、水野良、清松みゆきなどといった、間違いなく日本のTRPG界の重鎮で、ボクの憧れの一人だった。
当時の情報源にはインターネットなんかはなかったわけで。唯一の情報源は角川グループとホビージャパンの各種雑誌だったのだ。そんなわけでボクの世界は狭いからこそ、熱狂的になり Group SNE Official Site にボクは酷く傾倒していく。本気でグループSNEに入ろうと思って手紙も書いた。20歳近くなっても重度の中二病だったのではないだろうか。
で、どうして山本弘の名を深く知ったのかと言うと、当時のボクはクトゥルフ神話に強く惹かれていた。日本人著者のクトルゥフ神話を探す流れで「ラプラスの魔」に辿りついた。
ここまででも十分恥ずかしい話だけど、ボクはグループSNEのイベントとかにも積極的に顔を出した。山本弘にサインをねだったりもしたし、たまたまイベントでTRPGのゲームマスターをしていただいたこともあった。憧れの山本弘大先生を目の前にして、緊張して委縮しているボクらに対して、「ボクはロリコン」とカミングアウトした山本弘へ、一方的に妙な親近感を持ったりもした。
だけど。
いつしかボクにも特定の彼女ができて、二面性を持ち続けることが難しくなってきた。「毎週日曜はオタクの友達と遊ぶから、お前とは遊べない」というのは、ボクにはちょっと厳しかった。ボクはTRPGとファンタジーとSFを捨てた。
山本弘もグループSNEの山本ではなく、「と学会」会長の山本 弘になっていった。
で、数年ぶりに山本弘の名前を見て。「アイの物語」を手にとって読んだわけで。
SFだった。しかもかなりの名作だった。過去と今と未来を、彼の過去と今の7つの作品で繋いだ美しい構成だ。初めて、弾さんに感謝します。名作を紹介していただきまして、ありがとうございます。
最後に当時のボクへ。
ボクは10年近く前に、ほとんどの黒歴史を捨てたよね。二面性を持たざるを得ない自分の行動に疲れてもいたしさ。
結果、黒歴史と一緒に、いろんな、しかも大事なものも捨ててしまったのかも知れない。そのことで苦しんだりもしたよな。
レイヤー2だったら「それを捨てるなんてとんでもない!」って教えてくれたんだろうけれどw
それにさ、当時の彼女に理解して貰う努力も怠った。怖かったんだよな。
「理解できなくていい。ただ許容して」
この言葉を言えるような相手ではなかったんだよ……でも、今の嫁には言える。ソレは本当だよ。
だからキミの行動の全てが間違っているわけではないんだよ。